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付音念願す上へ行く(SAYSING_BYOUING『癲』リリース記念インタビュー)

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@Irish Pub THE HAKATA HARP
インタビュー&文字起こし by 甘粕試金




☷『ILLISH』から『癲』へ

─現在、西暦2019年3月1日18時02分。アルバムのマスタリング、詩集版の製作、CDの入稿が完了し、いよいよ最後の作業であるインタビュー収録へ臨まんとするところです。まずは、アルバムの完成を祝して乾杯しましょう。

 乾杯。2ヶ月ぶりかな。製作中の禁ギネス期間は堪えたよ。

─まずは時系列順でいきますか。あなたから『ILLI口』のラフミックス音源が送られてきたのが西暦2018年12月12日23時43分。この時期からレコーディングに入ったと見ていいわけですね。

 ああ。それまではトラックは出来ていたものの、レコーディングは遅々として進んでいなかった。何故かというと簡単で、歯医者にかかってる最中だったからだ。11月末に全部の治療が終わると同時に、すぐさまレコーディングに雪崩れ込んだ。終えたのが1月22日、2ヶ月程度で全10曲を録り終えたことになるかな。まあ、俺にしては速い方だ。

─新曲にとりかかる前に、『ILLISH』『ILLISHⅡ』で発表ずみだった楽曲の再録について伺いましょう。まず『臀部開拓史』の歌詞が微妙に変わり、もう金正恩がディスの対象ではなくなっていますね。

 正恩は大した男だと思うよ。80年前の日本軍なら間違いなくキレていたところを、やつは踏みとどまった。西暦2017-18年における北朝鮮の忍耐強さは、キューバ危機の頃のソ連に比肩しうるのじゃないかな。まあ、手前の国を独裁のまま生きながらえさせる手腕においてのみ、の話だが。

─再録ぶんの作業はいかがでしたか。具体的には、新曲と再録どちらのほうに手間と時間が取られたか、ですが。

 さすがに再録は早かったよ。『手前どもの手先』なんかは1日で録ったかな。他の曲は数日に分けてレコーディングしたものを繋いだりしてるんだが。まあ「1ヴァースごとに1テイク」の方針は全曲貫徹している。パンチインなんか面倒臭くてやってられないからな。

─収録環境に関しては……

 全曲自室でやった。いわばベッドルームレコーディングだ。その環境でこれだけのものを創り得た事実は、あらゆるジャンルのミュージシャンにとっての希望だろう。



─『手前どもの手先』に関しては、先行公開用にミュージックビデオも製作しましたね。撮影・編集を私がやったわけですが、白黒ならではの制限美と「営々と澱みなく続く、奇矯な鉄火場の夜」とのマリアージュが実現されたと思っております。

 いい仕事をしてくれたよ。撮影時の状況も良かったな。小雨が降った後で石畳が濡れていて、光の加減も良かった。さらにあの公園の鉄扉に貼られていた「ADHD」のステッカーを見つけた時には、「もらった」と思ったよ。

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[撮影:甘粕試金]

─その帰り道にポートレイトも撮影したわけですが、使えそうなのはこの1枚しかありませんでしたね。

 かなりの枚数撮ったんだけどな。あの公衆便所の前で撮ったやつなんか、良かったじゃないか。

─あれは男娼に見えすぎるのでボツにしました。後日あらためて撮ったポートレイトがこれですね。もしアー写の提出を求められたら、このうちいずれかを選んでもらうことにしましょう。

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[撮影:甘粕試金]

 本当に良い顔をしているな俺は。「ヒップホップ第5要素:フェイシング」とはよく言ったもんだ。

─ポートレイトのコンセプトは「ベッドルームメイプルソープ」でしたか。

 ああ。ただ、ここで「ジョナサン・グレイザー監督によるギネスのTVコマーシャルとメイプルソープによるポートレイトとの近似性」について一席ぶってもしょうがない。話を戻そう。
『手前どもの手先』ミュージックビデオについて補足すると、動画の最後に表示される☷(坤)の易経記号は、「我々のアルバムは三月三日にリリースされる」と「我々は西南(=坤)から来た」のふたつの意味がある。この楽曲のリリック自体が「対向」をテーマとしているように、我々の作品には全てふたつ以上の意味が含まれている。一部分だけしゃぶるのではなく、余さず味わい尽くしてもらいたいな。



☷01. ILLI口 (Mouth O' Madness)

─さて、『癲』で初披露となる4つの新曲について伺います。まず先行発表された『ILLI口』ですが、この曲ではBPMの値はそのままに、1拍を3連で分割し、そのクオンタイズの2の倍数にキック・スネアを配置することで突然BPMが変わったかのように聴かせるトリックが使われていますね。つまり、DAW画面上では2小節しか進行していないのに、実質的には異なるBPMが3小節ぶん進行しているように聴こえるわけです。同様のトリックは『病鍋』の後半部でも使用されていますが……

 待て、『病鍋』のほうは拍の分割が違う。『ILLI口』は確かに1拍3連をさらに2で割ることで別のビートのように聴かせているが、『病鍋』は8部音符3つをワルツで取っている。つまりDAW画面上3小節ぶんの進行で別のBPMの3/4ワルツ8小節分であるかのように聴かせている、ということだ。

─失礼しました。このように1曲の中に複数の拍の分割が仕込まれているのは、明らかに現行メインストリームのヒップホップにおける単調な3連ビートに対する異議申し立てのように思われるのですが……

 もちろんその通りだ。なぜ皆あんな低能な3連ビートに我慢できるのか、全く理解できない。俺はそもそも「一つのことに特化した作品」なんか創る気は無いね。全く異なるように思える複数の要素を混ぜて、喰わされた後ではそのマリアージュが今まで存在しなかったこと自体が思い出せなくなるような作品。それこそが俺の本領だ。おそらく今回すべての楽曲に一貫しているのじゃないかな。『ILLI口』も『病鍋』も『急病死』も。

─リリックについてはもはや説明の要も無いというか、これぞアルバム1曲目、という切れ味ですね。

 一応説明を加えるなら、最後の「これはお前たちが無視してきた詩人たちの唄/そしてお前たちが止めようとしなかった戦争のダンスだ」という一節は、ニジンスキーが1919年に大衆の前で言ったという「これから戦争を踊ります。皆さんが止めようとしなかった戦争、ゆえに皆さん全員に責任がある戦争です」のセリフが元になっている。まあ音声・映像が残っているわけじゃないため、各出典によって文言が違うが。

─『癲』を貫くテーマとして、「戦争」は無視できない要素だと思うのですが……

 取り立てて「いま現在が戦前的だ」と燥ぐことには何の意味もない。「前夜」でない時期など人類史上いっときも無かったんだからな。これは菊地成孔氏がほぼ全部の作品で取り扱っているテーマなので付け加えない。ただ俺から言いうるとすれば、この「使い道の無い否定性」の時代においては、各人がいかにして自らの藝術を美的に昇華するか、その手腕のみが問われているんだ。ジョイスが戦前戦中戦後においても書き続けていたように、俺も創り続ける。それだけのことだ。


☷02. 病鍋 (Oh, Don't Lie! Deckard)

─『病鍋』はこのアルバムで最もファンキーなビートですが、たしか GO FORCEMEN の『COMBO』に触発されて創ったのがこの曲でしたかね。

 ああ。ファンキーなブレイクビーツに歪んだベース、そこに煽りまくりのラップが乗る、明確なテーマだ。『COMBO』は本当に最高だよな。全てのブレイクビーツがああであるべきだと思うよ。illicit tsuboi 氏には是非このアルバムを聴いてもらいたいが、どうすべきかな……これから氏に届くくらい有名になるしかないか。

─フフフ……いきなり謙虚になりましたね。

 間違いなく、この国で一番ヒップホップを深いところで理解しているプロデューサーだからな。『癲』も illicit tsuboi 氏にミックスしてもらいたかったなあ。実は『病鍋』のミックスには満足してないんだよ。もっとビートを暴れ太鼓みたいにすべきだったが、なんか無難なところに納めてしまった気がしてな。

─アルバムを通して聴けばわかりますが、今回はビートよりボーカルトラックに特化したミックスになっていますよね。もしヒップホップの音像をラスト・ポエツ側とパブリック・エナミー側のふたつに大別するとすれば、『癲』は明らかに前者です。

 マスタリングが終わって、「ああ、俺は今回ビートミュージックを創ったわけじゃないんだな」と思ったよ。別にそれで良いんだ。『ILLISHⅡ』のときはあまりにもボーカルトラックが奥に行きすぎて、歯痒い思いをしたからな。とりあえず今回のアルバムで俺のリリシズムは十分に伝わると思うが、次回はもっとビートミュージック寄りのミックスにしたい。目標が多く在るのは良いことだ。


☷08. 癲帝 (HIV)
─アルバム後半の『癲帝』ですが……これはもう、リリシズムの塊のような曲ですね。正直なところ、私は SAYSING_BYOUING の広報担当としてではなく、ただのヒップホップヘッズのひとりとしてこの曲に出会いたかったと思っています。

 面白いな、俺は俺の記名性を消すことを身上としてヒップホップをやっているのに、そんな感想が出てくるのは。もちろんこのリリックの「朕」とは俺のことではない。俺を触媒として語らせている「あらゆる病者の長」の言うことだ。

─トラックに関しては、ビートが変わりすぎるくらい変わりますね。定番ブレイクビーツから四つ打ちからヘヴィメタルまで……

 トラックのコンセプトは幾層かに分かれている。まずイントロのギターのアルペジオ、あれはいつか使いたいなと思っていたんだが、フランク・オーシャンの『Pyramids』のシンセとキッスの『I Was Made For Lovin’ You』のベースを組み合わせることを思いつき、そこからEmのキーが設定された。……説明すべきかな、『Pyramids』のシンセと『I Was Made For Lovin’ You』のサビメロのフレーズがほぼ全く同じであること、さらにフランク・オーシャンと『I Was Made For Lovin’ You』の作曲者が同様にゲイであることについて。

─だからサブタイトルが(HIV)なんですね。

 “Hard Ill Verse” の頭文字でもあるがな。もちろんエイズはゲイコミュニティだけの宿痾ではないが、やはり20世紀最大の病気を数え上げれば必ずエイズは入ってくるだろう。この曲のリリックは70-80年代ゲイコミュニティの犠牲者に捧げられて……いやそれだけじゃないな、もっと大きな、20世紀の……ああ、まあいい、話しすぎると良くないんだこういうのは。

─言葉に詰まっておられるようなので、助け舟を出しますか。サンプリングされている声ネタについて伺いますが。

 ああ、あれはデレク・ジャーマン『ブルー』のイタリア語版吹替から抜いている。なぜイタリア語版かというと、YouTubeにあったし言葉の響きが良かったからだ。あれが無かったら『Pyramids』の存在感だけが悪目立ちしていたかもしれないな。声にかぶさっているゾゾーッという低音の効果により、良い具合の不協和をもたらしてくれた。


☷10. あした病気になあれ (SAYSING_BYOUING)

─アルバム最後を飾る『あした病気になあれ』も、同様に20世紀の死者たちに捧げられているように思えますが。

 時代に限定された話でもないんだけどな。これはもっと人類史を貫く生と性の……要するに『フィネガンズ・ウェイク』の……

─ああ、言っちゃった。私はなんとかその名前を出さずにインタビューを進めようと思っていたのですが。

 これはもうしょうがないだろう。というか聴けば一発でわかるだろう、『癲』がどれだけジョイスの力にあずかった作品かは。この曲の最後の「ラッパの音が、」にしたって、

─1曲目の「止むや」に接続されるつくりになっていますもんね。つまり円環、

 円環じゃない。その言葉を使うのはやめてくれ。円環じゃないんだ。なんのためにこのアルバムの発表日を3月3日に設定したと思ってる。この日付は8=ウロボロスの蛇がまっぷたつに切り裂かれたかたちをしている。頭で尾を噛ませて、それで円環構造ですなんて取り澄ましてるやつらと一緒にされたくないんだ。べつに Dir en grey をディスる気は無いが──というか『UROBOROS』はこのアルバム制作中にずっと聴いていたもののひとつだが──歴史全体をひとつの輪に見立てるって発想自体が最も20世紀的な病なんだよ。弁証法だ。そうじゃなくて、巨大な川の流れのなかでいくつもの闘争があるべきなんだ。それこそが『癲』を貫く「戦争のダンス」であり、同時に、

─川走[せんそう]、ですか。ついにここに帰着しましたね。

 トラックもそういうつくりになっている。『急病死』で試みたポリリズミックループミュージックの最進化版だな。さて、どこまでバラすべきか……

─いま私の手元には、あなたの筆による全曲サンプリングソースのリストがあるので、これを引用しながらリズムの構造解体をすることもできるわけですが……

 いや、ここはジョイスに倣って「沈黙、流浪、狡猾」のままにしておこう。何よりリスナーたちの耳を信じよう。この曲は冒頭の1音目から、リズムと調性の両方が乖離した状態で始まり、そして終わる。これで既に贅言だろう。

─「よばれても・いないのに」からの展開なんて、6年くらい前のカニエ・ウェストを思わせるものがありますが。

 まあ、カニエは5連符なんて理解しないだろうがな。そもそも俺はカニエを高く評価しない。キング・クリムゾンからサンプリングするのが『21世紀チガイ』だなんて、幼稚園のヒップホップきょうしつでようやく花丸がもらえるレベルだ。そしてカニエがああいう感じになってしまった以上、俺のように広義のブラックミュージック以外にもアンテナが立っている人間がヒップホップに陣取っていることは、公平に言って重要なことなんだ。実際、ポーキュパイン・トゥリーをサンプリングしたヒップホップクルーなんて俺らくらいだろう。

─でも、彼らはロックのジャンルで最も良いドラムサウンドを持っているので、ヒップホップで使われるのも当然とは言えるんですよね。

 そう。ちょっと話はズレるが、最近のSWのライブ映像を見てくれるかな……[iPhoneでYouTubeを立ち上げながら]これだ、これ。ステージ上でのSWの立ち居振る舞いを見てくれ。明らかに以前より「踊る」ようになってるだろう。ほとんどDC/PRGじゃないか。もっとも、SWの場合は即興の余地がほとんど無い完全編曲モノだろうが。

─先ほど「ビートミュージックを創ったわけではない」とおっしゃっていましたが、やはり「踊り」はあなたにとって重要な……

 当たり前だ。重要でないわけがない。ただクラブオリエンテッドな四つ打ちとかトラップとかでない、もっと複層的な「踊り」のリズムを持つ音楽だ。つまりポリリズムだが、その拍の構造を理解していなくても構わない、フロウに身を任せること自体が闘争であるかのような……

─「戦争のダンス」、ですね。結局ここに帰ってきてしまいました。

 そういうことだ。もう言うべきことは全て言ったろう。あとは思う存分『癲』を味わい尽くしてくれたまえ。

─えっ、いやあの、もうまとめに入るおつもりですか。最後に一問一答を用意していたのですが。

 じゃあ、それ済ませてとりあえず終わりだ。


☷そして『癲』さえも超えて


─今回の全曲の中で、最もよく書けたパンチラインを挙げるなら?

「これがペンです」か「厭離浄土欣求穢土」だろうな。もし自分で主催イベントをやるなら、どちらかをイベント名にするつもりだ。

─これからのライブ活動などは?

 まず、CDが出来上がってそれを福岡のクラブやレコード屋にばら撒くことから始めるべきだろう。その過程で喰いついてくれる人がいれば、流れでライブも決まるさ。そのためにはDJを見つけないとな。実は、『急病死』と『病鍋』にスクラッチを入れることができなかったのは大きな心残りなんだ。あの2曲はDJの参加でいくらでも化ける余地がある。

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[詩集版(CDのみ未到着)]

─次回作の展望は?

 既にある。次回は2部作にするつもりだ。5曲と5曲で分けて、前者はサンプリングなしの完全新規作曲のみ、後者は今回と同じようにサンプリングのみでやる。前者はダウンロード販売なりサブスクリプションなりで発表し、後者はミックステープとして無料公開する。次回は金をかけるし稼ぐつもりだ。タイトルは『Pandemic Plague Prankster』。“Pandemic” は「パンデマイク」と読んでもらう。ひとまず今回 This is HIPHOP なサンプリングオリエンテッドでいけることを証明したわけだから、次はじっくり時間をかけて仕込むぞ。ひとまず、新規作曲の1曲目が出来たらシングルとして発表するつもりだ。タイトルもリズムの構成も編曲をお願いしたいミュージシャンも既に決まってるんだが、流石に秘密にしておこう。

─そこまで決まっているのであれば、広報担当としても心配はなさそうです。

 実際、今回ここまでの作品が出来てしまった以上、俺は日本のヒップホップシーンの重要人物の1人に数えられざるを得ないだろう。フリースタイルバトルみたいな右顧左眄の社交界でイキってる子どもたちではなく、まったく無名の人間がここまでのシットを叩きつけてしまったんだからな。
 もちろん俺は詩人でもあるわけだから、『癲』の影響力はヒップホップ界隈のみに留まらないだろう。三流トラックメイカーにつくってもらった三連のビートに乗って「できちゃったー」と燥いでた三歳児以下の低能どもをヘコますのと同時に、たとえば最果タヒや少年アヤのような、感性の発達が90年代で止まってしまった、勉強不足で体力不足の、アイドルとしても文人としても中途半端なイタい子ちゃんたちを失業させてやることもまた、俺の役目だ。


─どんどんラストワードに近づいてきましたが。

 事実、西暦2019年現在のこの島国について言えるのは、「もうこの国で何を言っても無駄だ」ってことだ。だが、これを何か雑魚リベラルの嘆き芸と一緒にしてもらっては困る。奴らと違うのは、俺はここから新たな闘争を始められることだ。言うなれば、俺は日本列島を「日本人」の手から解放するために働く。それが俺の詩的闘争であり、ポエティック・ジャスティスだ。俺は未だ来たらぬ辞書のため、未知の使い途見つけるべく働く。 Behold the verve of barbarian, you punk!!!



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[西暦2019年3月1日20時26分 撮影:Irish Pub THE HAKATA HARP店員氏]


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